木のはなし Vol.4 「欅」

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 クリスマスが近づいて、街がイルミネーションで華やかになっています。
年末へ向けてイベント事も多くて慌しい日々ですが、やっぱり少し気持ちがわくわくする季節ですね。

 さて、「木のはなし」も4回目。今回はケヤキのお話です。
 木のはなし Vol.4 ‘94年12月5日発行「欅」より

 

 欅といえば府中大国神社が特に有名だが、もっと身近な場所でいうと原宿・表参道が思い浮かぶ。12月に入るとこの欅はモノトーンの電飾にまとわれ、夜になると一斉に欅特有のしなやかな枝ぶりを披露し、通りすがる人々の目を楽しませてくれる。

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 空に向けて扇を半ば開いたような、円形状に広がる細く屈曲したその枝ぶりは、葉を落とした真冬ですらその優雅さを失うことはない。
 東京周辺に欅が多いのは、江戸の昔からその材を橋桁や船材に使ったり、枝を海苔の粗朶(そだ)に用いたりした為に、幕府がその植栽を奨励したからだそうだ。
 しかし、残念ながらそんな欅もこの頃めっきり少なくなってしまった。冬のからっ風を防ぎ、里の木として人々に愛され親しまれてきたこの欅すら、いまや落ち葉への苦情やら税金対策による土地の分割などで、容赦なく切り倒されてゆく。はたして人間に必要と不必要を決定する権利があるのだろうか?今更ながらそんな疑問が沸き起こる。

 ところで、ブビンガという洋材を耳にした方も多いと思うが、これはいわばアフリカ産の欅にあたる。このように例えば楓がアメリカではメイプルを意味するように、世界には日本の広葉樹に類似する木がたくさん存在している。
 しかし、我々の立場からその原木を目の当たりに比較すると、おなじ種であることは理解できるが、我々が求めている作品に対する創作意欲が外材ではなかなか満たされぬ事実を感じてしまう。
 これは、日本人であることの愛国心から生まれるひいきとは違い、日本の樹がいかに世界のトップランクに値するかを物語っているように思う。
 言葉のように「ありがとう」が海外では「ダンケ(ドイツ)」であり「グラシャス(スペイン)」、「謝謝(中国)」であることとは違い、樹の場合は同じ種属でも地域環境や気候の差によって、まったく別のものになってしまう。
 もちろん海外にもすばらしい素材は数多くあるが、樹が豊富だったがゆえに貴重と思われ難かった日本の樹が、いかにすばらしいものであるかを、我々は作品を通してご理解していただけるよう努力してゆこうと考えている。

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 工房ではこの20年間に渡り、苦労して数多くの日本の広葉樹をテーブルの素材として原板(厚板)という形で確保してきた。そのおかげで、他では見ることのできないテーブルを皆さんに提供し続けることができている。そして我々も、このすばらしい天然の素材に頼るのではなく、より生かすデザインと作品を残してゆけるよう日々心掛けてゆきたい。

2007年11月24日 11:19

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